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2025.04.15

【学生記事】 姫路における金属産業のルーツと歴史

はじめに
兵庫県立大学大学院工学研究科のD.Y.です。大学院の博士前期課程では、電子顕微鏡と放射光施設「ニュースバル」を使用して、金属シリサイドという半導体における重要な材料についての研究を行っています。
出石の機械時計初号機・二号機の分析は、姫路(兵庫県立大学)を拠点とし、明石(明石市立天文科学館)や神戸(兵庫県立工業技術センター、神戸市立工業専門学校、新産業創造機構・NIRO)など「ひょうごメタルベルト」内に位置する専門機関と連携し、実施されています。「ひょうごメタルベルト」とは、阪神から播磨の瀬戸内海沿岸を中心に、全国有数の金属素材製造・加工企業が集積するエリアのことを言います。
姫路市出身の私は、なぜ「ひょうごメタルベルト」の中でも姫路では金属産業が盛んなのか、この理由を探るべくその歴史を紐解いてみました。

 

概要
姫路は、古くから奈良(平城京)、京都(平安京)、大阪など上方と、西方の地を結ぶ山陽道の幹線街道や、北方に続く播但道(姫路 – 福崎 – 市川 – 神河 – 朝来(あさご) – 養父(やぶ) – 豊岡)を結ぶ交通の要所として栄えてきました。また、姫路は、弥生時代中期末の集落跡である「名古山(なごやま)弥生遺跡」をはじめ、兵庫県における鋳物業の発祥地である「野里(のざと)」、現在も播磨臨海工業地域で稼働している「日本製鉄 瀬戸内製鉄所広畑地区」もあり、金属産業が盛んな地域として長い歴史を有します。

 

名古山弥生遺跡の「銅鐸鋳型(どうたくいがた)」
姫路と金属を結びつける歴史は弥生時代まで遡ります。姫路市中部にある「名古山弥生遺跡」では、弥生時代中期末の集落跡として3棟以上の竪穴式住居跡が1960年の発掘調査で確認されました。また、竪穴式住居跡からは弥生時代につくられた青銅製のベルである銅鐸の石(凝灰質砂岩)製鋳型が出土しています。このニュースは、これまで弥生時代の銅鐸鋳型は砂型のみとされてきた考古学の定説を覆す日本最初の出土例として学会に大きな反響を呼びました。
後年に姫路市中部にある縄文時代後期前半から平安時代にかけての遺跡である今宿丁田(いまじゅくちょうだ)遺跡からも弥生時代中期の石製銅鐸鋳型が出土されました。このように姫路では石製銅鐸鋳型が名古山弥生遺跡と今宿丁田遺跡という近距離にある遺跡から発見され、古くから金属産業が盛んであることがわかります。

 

野里と鋳造
野里の地名は、奈良時代初期に朝廷の命により土地の伝承や動植物や資源などをまとめた「播磨国風土記」の中に記載されている「大野里」が由来とされており、中世には「野里村」が成立したとされています。
野里は、古くから播但道の窓口として栄え、池田輝政の城下町割によって現在の野里地区の原型ができたとされています。また、野里は兵庫県における鋳物業の発祥地としても知られています。伝統産業の野里鋳物は古くから有名な産物で、特に平安時代に播磨の特産とされた「播磨鍋」が室町時代に野里で生産されていたことから「野里鍋」とも呼ばれました。

 

銀の馬車道、千種(ちくさ)鉄
明治時代に日本初の高速産業道路として築かれた「銀の馬車道(正式名称:生野鉱山寮馬車道)」は、姫路・飾磨港から生野(いくの)銀山へと南北一直線に貫く約46kmの馬車専用道路<です。この「銀の馬車道」と生野銀山のさらに北にある「神子畑(みこばた)鉱山(銅)」、「明延(あけのべ)鉱山(銅)」、「中瀬(なかぜ)鉱山(金)」からなる「鉱石の道」を合わせた全長73kmの道は、近代化を推し進め、日本を鉱物資源大国に成長させた先人たちの歴史や明治の面影を感じることができます。
日本で古代から続いてきた砂鉄を木炭の火力で製錬することで鉄を得る製鉄法を「たたら製鉄」といいます。兵庫県の中部にある宍粟(しそう)市千種町は溶鉱炉でコークスを使用し鉄鉱石を製錬する近代製鉄が伝わる明治時代初期まで「たたら製鉄」が盛んでした。また、千種で生産された鉄は、「千草鉄」と呼ばれ、その質の高さから中世以降、備前(岡山県東部)の刀匠たちに重宝されました。

 

最後に
姫路は、1993年に世界文化遺産に登録された姫路城や書写山圓教寺などの国指定重要文化財といった文化的・歴史的に重要なものが数多くあることや近代製鉄が盛んであることは一般的に知られていると思います。一方で、姫路で金属産業が「なぜ」盛んであるのか、どのような「歴史」があるのかは知りませんでした。記事を書いていくことで、この「なぜ」や「歴史」を知ることができ、私の地元である姫路についての理解が深まる良い機会でした。また、兵庫県立大学・姫路工学キャンパスに金属など材料について学べる学科や金属に関する研究所(金属新素材研究センター)があるのは、姫路が古くから金属産業が盛んであるからかもしれません。「出石の機械時計初号機・二号機」の解析がこの姫路を中心として行われ、詳細な結果が判明することが非常に楽しみです。

 

<執筆>
執筆:D.Y.(兵庫県立大学大学院工学研究科・博士前期課程 学生)
サポート:森(ワードワーク), 永瀬(兵庫県立大学)

 

参考にした文献・資料
【兵庫県立大学 HP】
兵庫県立大学 社会価値創造機構HP
ひょうごメタルベルトコンソーシアム
https://uh-sangaku.jp/metalbelt-consortium/
兵庫県立大学 社会価値創造機構HP
金属新素材研究センター
https://uh-sangaku.jp/new-metal-material/
 
【兵庫県立考古博物館 HP】
兵庫県立考古博物館HP
考古資料集成32.銅鐸
https://www.hyogo-koukohaku.jp/modules/info/index.php?action=PageView&page_id=122
 
【兵庫県立歴史博物館 HP】
兵庫県立歴史博物館HP
遺跡から見る播磨たたら製鉄
https://rekihaku.pref.hyogo.lg.jp/digital_museum/harima-tatara/remains/
兵庫県立歴史博物館HP
風土記とは
https://rekihaku.pref.hyogo.lg.jp/digital_museum/harimanokunifudoki/overview/
兵庫県立歴史博物館HP
名所めぐり : 但馬道
https://rekihaku.pref.hyogo.lg.jp/digital_museum/trip/road_tajima/
 
【兵庫県 市町村HP】
姫路市HP
名古山弥生式住居跡
https://www.city.himeji.lg.jp/kanko/0000002065.html
姫路市HP
名古山弥生遺跡出土遺物
https://www.city.himeji.lg.jp/kanko/0000002036.html
姫路市HP
今宿丁田遺跡
https://www.city.himeji.lg.jp/maibun-center/0000008409.html
姫路市HP
野里地区
https://www.city.himeji.lg.jp/kanko/0000008126.html
宍粟市HP
たたらの里学習館
https://www.city.shiso.lg.jp/soshiki/kyoikuiinkai/tataranosatogakusyukan/1386565969111.htm
 
【兵庫県 県民局・県民センターHP】
兵庫県中播磨県民センター
兵庫県中播磨消費者センター編集 中播磨 Wa’ Wa’ Wa’
https://web.pref.hyogo.lg.jp/chk12/shohi/documents/no101.pdf
兵庫県但馬県民局 鉱石の道推進協議会
近代化産業遺産 鉱石の道 近代日本の鉱山開発は”ここ”から始まった… 三鉱山の概要
https://koseki-michi.com/kosekinomichi/kosekinomichi06

【その他】
日本遺産推進協議会HP
日本遺産「播但貫く、銀の馬車道 鉱石の道」、日本遺産ストーリー
https://wadachi73.jp/story/
銀の馬車道ネットワーク協議会HP
銀の馬車道とは
https://www.gin-basha.jp/about/

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