初号機の調査報告(2025.01.05), 山形県鶴岡市 常念寺 の機械時計(旧西田川郡役所塔時計)との比較検討
日時: 2024年12月17日(火)15時~17時50分
場所: 常念寺 〒997-0817 山形県鶴岡市睦町1−1
相手方:常念寺 渡邊副住職
鶴岡市教育委員会 社会教育課文化財係 難波係長、加藤主事
出張者:NIRO 中嶋
内容
● 常念寺の時計は、山形県の県指定文化財で、
名称としては「旧西田川郡役所塔時計」であり、現在は常念寺に保管されている。
以下では、「旧西田川機」と記述する。
● SI2024講演会への往路に仙台から高速バスで鶴岡を往復し、常念寺を訪れた。
旧西田川機について情報交換していた
鶴岡市教育委員会の難波係長も、加藤主事を同行し、来ていただけた。
● 旧西田川機の第一印象は小さい。
写真でしか見ていなかったので分からなかったが、
出石初号機が正面から見てほぼ60cm×60cmであるのに対し、
は旧西田川機は30cm×30cmしかない。
スケールで1/2なので、体積では1/8になる。
かつ、これまでの写真では分からなかったが、
機械部の置かれた場所は狭い場所で、色々な方向から写真を撮ったり、観察したり、できる場所ではなかった。
● 副住職の話をお聞きすると、何年か前まで、1週間に1回、分銅を巻き上げると動いていた。
それが分針が40分位になると動かなくなった。
● 分銅を巻き上げ、振子を振らすと、約2秒の周期で振子が振れ、ガンギ車が作用し(アンカー脱進機)、分針が動いた。
最初、0分の位置にあった分針がだんだん下がってくる。
分針をアームと考えると、0分から30分は、分針の重さに起因する重力トルクが分針の動きを助けてくれる。
一方、30分以降は重力逆らう。
● 文字盤の裏側を見ると、下記の写真のように、アームと錘が付いている。
● このアームと錘が分針とは逆の方向であり、かつ、バランスしていれば、
どの時間でも分針の位置による重力トルクはかからないはずである。
現実には、約90度の位置関係にあり、
分針が40分を指す位置が、最も安定な位置となっており、
40分を超えると重力トルクに逆らい、持上げる必要がある。
● 分銅による駆動トルクが分針の持上げに費やされ、
ガンギ車を介し、振子を振れさせ続ける作用を果たせていなかったと考えられる。
● 全体のサイズの違い以外で、機構面で感じたのは、
旧西田川機は、分銅の駆動軸からガンギ車の回転軸へ、
あるいは、時打ちの方ではフライの回転軸へ、歯車の歯が細かくなることである。
高速回転軸はトルクが小さいので、合理的な設計である。
出石初号機では、どの歯車も同じようなピッチで作られているように見えるが、
ガンギ車に近い歯車は失われているので、比較はできない。
● 下記に、旧西田川機の寸法や歯数を、
以前、鶴岡市教育委員会からいただいた写真に上書きで記入した図を示す。
● 歯数に関しては、場所が窮屈で、歯車の全周を数えることができなかった。
約90度の範囲の歯数を数え、4倍することで歯数を以下の求めた。正確さに掛けるが、概数として捉えていただきたい。
● 以下は今回、撮影した写真を示す。
時計文字盤側から左側(分銅滑車~がんぎ車)
● 旧西田川機調査のまとめ
● 旧西田川機はフレーム、歯車、シャフト系、
ともに、色から判断し、すべて真鍮製と考えられる。
一方、出石初号機は、
フレームとシャフトは鉄系、歯車のみ真鍮系の材料が使われており、大きな違いがある。
出石初号機は、大きさの違いゆえ、
フレームとシャフトは鉄系材料を使用したとも考えられる。
● 歯車の歯型は、
旧西田川機も出石初号機と同様に和時計によくみられるUの字形をしており、
札幌時計台のような機械切りと思われる歯型とは明らかに異なる。
● 歯数の少ないピニオンギヤに関しては、
旧西田川機はすべて通常の平歯車で最小歯数は10枚だった。
一方、出石初号機には、
ピンピニオン(円板の円周近くを複数の丸棒で接続し、丸棒の並びを歯形代わりに使用する)が使われ、
最小歯数は8枚である。ここは異なる。
なお、Morbier Clockにもピンピニオンが使われていない。
● 出石初号機が国産だとすると、
旧西田川機と同時期に作られており、
出石から東京に行ったと言われる青年2人が金田市兵衛の工房で、
旧西田川機と同じ考え方で作った可能性が高いと考えていたが、
今回の調査で明らかな相違点もあり、
国産としても、金田市兵衛とは別の工房で作られたものではないか。
・出石初号機は、
輸入品ではなく、Morbier Clock等の輸入品を真似て作った国産品という考えには、変わりはない。